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PARCO presents ピナ・バウシュ『春の祭典』、『PHILIPS 836 887 DSY』/ ジェルメーヌ・アコニー『オマージュ・トゥ・ジ・アンセスターズ』来日公演 レポート&インタビュー

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PARCO presents ピナ・バウシュ『春の祭典』、『PHILIPS 836 887 DSY』/ ジェルメーヌ・アコニー『オマージュ・トゥ・ジ・アンセスターズ』来日公演 レポート&インタビュー | Parco Cruise| PARCO(パルコ)
PARCO presents ピナ・バウシュ『春の祭典』、『PHILIPS 836 887 DSY』/ ジェルメーヌ・アコニー『オマージュ・トゥ・ジ・アンセスターズ』来日公演 レポート&インタビュー | Parco Cruise| PARCO(パルコ)
Photo
Maarten Vanden Abeele © Pina Bausch Foundation
Text
Atsushi Kosugi





サロモン・バウシュ(ピナ・バウシュ財団 創設者・理事) Interview



© Uwe Shinke

――昨日、日本公演初日の幕が開きました。ご覧になられていかがでしたか。

素晴らしい初日でした。東京という素晴らしい場所で、この作品を上演できたことを喜ばしく思います。パフォーミング・アーツとはあらかじめ決まったものを再現するのではなく、その日その日で変化する生ものです。そういう意味で昨夜の公演は、この場所だけで生まれ得るエネルギーを感じた、非常にエキサイティングな上演となりました。

――終演後、ご覧になった観客の方々からは大きな拍手、そして歓声が起きました。劇場にいる誰もが、この作品を心から享受しているように感じられました。

会場でその様子を目の当たりにして、心から感動しましたし、ご覧になった皆さんが、この作品に大きく揺さぶられているように感じられました。「これらの作品がいかに素晴らしいものであるか、今の日本の観客に提示できたことに大きな意義がある」と言ってくださる方もいらっしゃいました。これは劇場だけで終わる作品ではありません。劇場を出たあと、帰途や帰宅されてからも、これらの作品をご自分の中に受け入れ、深く感じていただけたのではないかと期待しています。

――このような公演を実現できたことは、ピナ・バウシュ財団の掲げる「ピナ作品の次世代への継承」という部分でも、大きな意味を持つのではないかと思います。

こうした形で公演を実現することは非常に大きな仕事であり、冒険であると私は常に思っています。それが実現できるのはアーティスティックな要素だけではなく、やはり財団としての実務などを含めた皆さんの力があってのことです。そういう意味でも本公演の実現は、ピナ作品を継承していくにあたり大きな実績の一つとなったのではないかと思います。

――昨日の終演後、サロモンさんの目にはダンサーの方々の様子はどのように映りましたか。

表現の仕方はそれぞれで異なりますが、誰もが公演の成功を喜んでいましたし、公演初日をやり遂げた充実と安堵を感じていたと思います。そして東京という非常に重要な場所で、公演を実現できたことへの感謝を感じていたのではないでしょうか。そして今日もダンサーの皆さんは、上演前の時間を使って会場の舞台でリハーサルを重ねています。このカンパニーでは2021年から『春の祭典』を上演していますが、今も時間をかけて同じクオリティで作品をご覧いただけるよう努力を傾けているのです。

――今回の日本公演はパルコとのコラボレーションにより実現されたと伺っています。それにはどのような経緯があったのか、教えてください。

この公演は英国のサドラーズ・ウェルズ・シアターとの共同プロデュース作品です。そしてサドラーズ・ウェルズ・シアターとパルコの間には、以前から深い関係がありました。つまりサドラーズ・ウェルズ・シアターのパルコに対する信頼があったからこそ、今回の招聘に我々も安心して応じることができました。

――ピナ・バウシュ財団がコラボレーションに当たって重視しているのは、どのようなことでしょうか。

お互いにプロフェッショナルな組織であることはもちろんですが、相手に本当にこの公演を実現したい強い気持ちがあるかどうか、ということですね。それがなにより重要だと思っています。この公演は2022年に実現するはずでしたが、コロナ禍により実現できませんでした。非常に残念でしたが、それが我々の絆をより強いものにしてくれましたし、困難を乗り越えてコラボレーションを実現させる大切さを認識できました。

――コロナ禍を乗り越えて必ず公演を実現するという強い意志が双方にあったと。

困難に陥ったときほど相手がよくわかりますし、乗り越えたときには絆が見えてきます。これはかなり大きなプロダクションですので、実現することは決して容易ではありません。カンパニーメンバーのビザ取得やロジスティクス、そして予算の問題もあります。昨夜の公演で感じた感動には、それらを乗り越えたことへの達成感も含まれているでしょう。このカンパニーはパーマネントなものでありません。そういった意味でも今回のダンサーと来日し上演に向けて作業をすることで、日本側の皆さんと繋がれたのは素晴らしい経験になりました。もちろんピナ・バウシュ及びピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団にとって、日本とは1986年に『春の祭典』を東京で初めて上演した頃からの関係があり、それも本公演の基礎になっているといえます。

――今回の日本公演を実現するにあたり、実務面でなにか困難が生じた局面はありましたか。

やはり新型コロナウイルス感染症のパンデミックを避けて語ることはできません。そして、この『春の祭典』に参加する35名のダンサーは、常に一つの場所で活動しているわけではありません。ですから公演を行う国のビザを取得するため、どう手続きを行うか……アポイントメントも含め、膨大な作業を正確に行わなければなりませんでした。本当にクレイジーなくらい大変なことですがサドラーズ・ウェルズ・シアターに加えて、パルコの皆さんが丁寧に対応してくださいました。

――カンパニーが日本に到着してからの公演準備は、スムーズでしたか。

はい。そして、そのことについてとくに驚きはありませんでした。なぜならパルコの皆さんが、来日までの準備を的確に進めてくださっていたからです。来日後に関しても遺漏なく進めてくださるだろうと思っていましたが、実際に現場で誠実に対応してくださり、安心することができました。温かいマインドで我々を受け入れてくださったことをうれしく思いますし、カンパニーのさまざまな部門とレベルから、コラボレーションがうまく進んでいることを示す報告を受け取っています。この公演は出演者やスタッフも多いですし、とくに『春の祭典』ではあれだけ多くの土を舞台に敷き詰め、撤収しなければなりません。そういう部分も含め、大変複雑な作品を持ってきていることは自覚していますので(笑)、パルコの皆さんとこの作品の上演を実現できたことは素晴らしいことだと感じています。

Photo: Ulli Weiss ©Pina Bausch Foundation

ピナ・バウシュ Pina Bausch

1940年生まれ、ドイツ・ゾーリンゲン出身。同ヴッパタールにて2009年に死去。エッセンのフォルクヴァンク芸術学校でクルト・ヨースに師事。舞踊を学び、卓越した技術を身につけた。その後、ヴッパタール劇場機構ディレクターであるアルノ・ヴュステンヘーファーの求めに応じ、ヴッパタール・バレエ団の芸術監督に就任。1973年秋からは、同団の名称をタンツテアター・ヴッパタールと改めた。当初は賛否両論がありながらも、この名称のもと、次第に国際的な知名度を獲得。その詩的な要素と日常的な要素の組み合わせは、舞踊界の国際的発展に決定的な影響を与えた。数多くの受賞歴を誇る、現代における最も重要な舞踊家の一人である。

ピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団

ピナ・バウシュはダンスの歴史に新たなページを刻んだ。世界的に知られるピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団を創設したのみならず、ダンスシアターというジャンルをも形成。世界中の無数のアーティストや振付家、演出家に影響を与えた。その功績により、ドイツ・ダンス賞、ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞、京都賞など、多くの受賞歴を有する。1973年、若きダンサー、振付家であったピナ・バウシュは、ヴッパタール・バレエ団の芸術監督に就任。直後に同バレエ団を「タンツテアター・ヴッパタール(ピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団)」へ改称した。 46作品を創作、その作品は制作から数十年経った今でも人々の感動、共感を呼び、心を揺さぶる。舞踊団は多くの作品を現在もレパートリーとして残しており、このレガシーを注意深く、また献身的に、心血を注ぎながら維持、継承。ダンサーたち一人ひとりが作品に個性をもたらし、三つの世代がともに作品の上演に取り組んでいる。年長のダンサーは若いダンサーたちに役を引き継ぎ、自らの身体に刻まれた経験を共有する。2022年8月、フランスの振付家ボリス・シャルマッツが舞踊団の芸術監督に就任した。
www.pina-bausch.de









プロデューサーチーム Interview



今回のピナ・バウシュ来日公演は、パルコとサドラーズ・ウェルズ・シアターとの繋がりによって招聘が実現した。その端緒は2016年、サドラーズ・ウェルズ・シアター製作による『スートラ』に遡る。以降、サドラーズ・ウェルズ・シアターから質の高いダンス作品やプロジェクトの提案を受けており、パルコも以前よりピナ作品に携わることができたらと考えていた、とプロデューサーは話す。

「ピナ・バウシュが亡くなったあと、ピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団以外のバレエ団によって、彼女の作品を踊るプロジェクトが展開されました。それらについて調べていく中、サドラーズ・ウェルズ・シアターから今回のお話をいただき、今回の公演が実現したのです。ピナ・バウシュの『春の祭典』は50年ほど前に初演されたものですが、それをアフリカのダンサーで上演するという発想には、パルコが発信するプロジェクトとの親和性があると感じました。舞台芸術にはその時々の社会の写像という要素があり、音楽や映画、現代アートなどと同様、次々に新しい表現が出現しています。PARCO劇場のラインナップにも表れていますが、我々がこれまで回顧主義に陥ることなく、古典の先にあるものを追ってきたということもあり、来日公演に向けて動き出しました」

だが、2022年に予定されていた公演は、国内外の新型コロナウィルスの感染拡大の影響で中止を余儀なくされる。それでもサドラーズ・ウェルズ・シアターとの間で、時期を改めての上演について協議が進められていたという。

「2022年の公演は中止となりましたが、幸いにも再び話を進めることができました。来日カンパニーのチームの皆さんとの間にもより深い信頼関係を生まれましたし、今回、東京でリハーサルを目の当たりにして、これは多くの人たちが労力を費やし創った表現だと再認識しました。カンパニーはこの5公演のために長いフライトを経て来日し、素晴らしいステージを見せてくださり、お客さまもまたあらかじめ予定を立ててチケットを購入し、劇場に足を運んでくださったわけで、それがどれだけ大変なことなのかを、忘れないようにしたいと改めて思いました」

今回の来日公演ではアフリカ13ヵ国のダンサー、そしてスタッフを含め世界20ヵ国以上からクルーが集結した。これだけ大規模のカンパニーを迎え入れた際の印象、そして公演を終えてなにを感じたかについても聞いてみた。

「個人的にはもっといろいろできたのでは、と思うことばかりです。ですが、52人のクルーが20以上の国々から無事到着し、リハーサルを行い本番を終え、無事に帰国の途につけただけでも奇跡的なことですし、つつがなく進行できたことを誇りに思っています。初日が無事に開幕できたときも、まずはホッとしたのが正直な気持ちでしたね。カンパニーの方が『コロナ禍で2年延期されたことで、ダンサーと作品が成長した』とお話しされていましたが、私もそれは強く感じました。そして初日の開演直前まで、ピナ・バウシュ財団が派遣した本作のアーティスティック・ディレクターが緻密なリハーサルをしたあと、『上手に踊るのも大事だけど、カオスが表出するところも見たい』とおっしゃったのが印象的でした。一糸乱れぬ群舞が特徴のグループもありますが、このカンパニーにはそれを凌駕するパワーと魅力が感じられました」

よりよい環境で作品が上演できるように配慮していたことが窺えるコメントだが、この公演を終えてみて、プロデューサーの立場からはどのような手応えを感じたのだろうか。

「舞台芸術は同じ空間で観て感じるもの。演劇なら台本は『読む』ものではなく『観る』ものだと思いますし、生のダンスに触れるのは、映像で観るのとはまったくの別体験です。表現の熱を直接体感することができる、その魅力が多くの方に伝わるとうれしいですし、今回の公演はチケットを購入してくださった方々に20代、30代の方も予想以上に多く、それもうれしく思いました。『春の祭典』の初演時には生まれていなかった方が大勢来てくださいましたし、中には親子で来てくださった方、ダンススクールの先生に勧められて足を運んでくださった生徒さんなど、若い世代が大勢観てくださったのは、作品にとっても大きなことだと考えています」

こうした成果はピナ・バウシュ財団が目指している、次の世代への継承という点でも大きな意味を持つ。この公演で両者はどのように協働することができたのか。

「ピナ・バウシュ財団ではテキストや映像など、作品情報を綿密にアーカイブしていて、それを踏まえつつピナ・バウシュ・ヴッパタール舞踊団メンバーによる振付指導が行われることで、新しい公演を成立させています。パルコは自分たちの劇場を持ち、そこで上演するための作品創りも行っているので、作品の上演に至るまでの過程にも想像力を働かせ、それをアーティストとある程度共有できるのではないかと思っています」

最後は来日したカンパニー、会場に足を運んだ観客への感謝の言葉で、インタビューは締めくくられた。

「カンパニーの方々は皆さん非常に素晴らしい方々で、我々も助けられましたし、『この人たちのために頑張ろう』と思いましたね。そして期待に違わぬ見事なパフォーマンスを見せてくださったことに感謝しています。私は劇場の空気の半分はお客さまが作ってくださっていると思っているので、この作品の熱を共有してくださったお客さまにも感謝しています。ダンサーの方々からも『日本の観客はとても温かかった』という言葉がありました。やはり素晴らしい作品は愛や情熱から生まれ、それはお客さまにも伝わりますし、この作品の熱に日本のスタッフたちも鼓舞してもらったと思っています」











The Rite of Spring, PHILIPS 836 887 DSY, Homage to the Ancestors is a Pina Bausch Foundation, École des Sables & Sadler’s Wells production.

Creative Credits

The Rite of Spring
Choreography – Pina Bausch
Music – Igor Stravinsky
Set and Costumes – Rolf Borzik
Collaboration – Hans Pop
World Premiere -3 December 1975, Opera House Wuppertal
Restaging
Artistic Directors – Josephine Ann Endicott, Jorge Puerta Armenta, Clémentine Deluy
Rehearsal Directors – Ditta Miranda Jasjfi and Çağdaş Ermiş, Barbara Kaufmann, Julie Shanahan, Kenji Takagi A Pina Bausch Foundation, École des Sables & Sadler’s Wells production, co-produced with Théâtre de la Ville, Paris; Les Théâtres de la Ville de Luxembourg; Holland Festival, Amsterdam; Festspielhaus, St Pölten; Ludwigsburg Festival; Teatros del Canal de la Comunidad de Madrid, Adelaide Festival and Spoleto Festival dei 2Mondi.
The project is funded by the German Federal Cultural Foundation, the Ministry of Culture and Science of the German State of North Rhine-Westphalia, and the International Coproduction Fund of the Goethe-Institut, and kindly supported by the Tanztheater Wuppertal Pina Bausch.


ピナ・バウシュ『春の祭典』、『PHILIPS 836 887 DSY』/ジェルメーヌ・アコニー『オマージュ・トゥ・ジ・アンセスターズ』日本公演オフィシャルビジュアルブック+パンフレット販売ページ(2024年12月13日(金)17:00まで)

https://online.parco.jp/shop/g/gPLP0655/



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