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COLUMN

ホワイトデー

 ホワイトデーの思い出がないのはバレンタインデーの思い出がないからだ。中学時代は恋愛とは縁遠かったし、高校は男子高だったし、大学以降はバレンタインデーやホワイトデーという文化が周囲からなくなってた。プレゼントをもらえないとそもそもお返しはできない。

 僕はプレゼントに限らず、なにかを返すのが苦手だ。仕事のメールは返信するのに何日もかかってしまい、映画や漫画をレンタルしてもいつも延滞してしまう。返すのが苦手だから貰うのも借りるのも苦手だ。人からせっかくプレゼントをもらっても「なくさずに持ってられるだろうか」とか「これに見合ったものを返せるだろうか」とかをまず考えてしまう。そんなこと考えるまえに、まずは素直に喜んで感謝しろよとおもうのだけど、それができない。しかも、結局なくしてしまったりする。書いてて落ち込んできた。

 僕は演劇を通していつも返す練習をしている気がする。演技っていうのは返す姿をつくる作業だ。舞台上で1人の俳優が台詞を言う。そこに別の俳優が現れて台詞を聞く。そして、その俳優が相槌を打つ。すると、さっきまでモノローグだったものが突然ダイアローグに切り替わる。僕は稽古でこの瞬間をみるのが好きだ。孤独な独白がだれかに届いて、相槌を返されることによって対話になる。俳優は舞台上で受け取った音や光や身体や言葉を丁寧に返し続ける。俳優とは美しく返せる人たちのことだ。もらったり返したりって形式的なことじゃなくて、日々生きていたら普段の生活で誰もがやってることなのだよな、と稽古しながらおもう。みんな無意識にもらったり返したりしながら生きている。愛とか喜びとか考えるのも馬鹿馬鹿しいくらいにあたりまえのギブアンドテイク。それは返すって言うより応答って言葉が似合うのかもしれない。

 稽古場に行って丁寧に返しあう俳優たちをみつめる。贈りあい返しあう俳優たち。
僕は、彼らと彼女らにどんな風に応答できるだろう。

三浦直之(みうら・なおゆき)

1987年、宮城県出身。劇作家。演出家。2009年、主宰としてロロを立ち上げ、全作品の脚本・演出を担当。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。2019年脚本を担当したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。2月27日(土)よりロロ『四角い2つのさみしい窓』が福島県で上演される。http://loloweb.jp

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