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COLUMN

サマーギフト

小学三年生の夏休みに、女川という港町から富谷町(現在は富谷市)という新興住宅地へと引っ越した。富谷は今でこそ人口が増えてショッピングモールや映画館もあるけれど、引っ越した当初はまだ空き地だらけのなんにもない場所だった。そんななにもない退屈な場所で、友だちもいない僕の唯一の遊び相手は、祖父の家を訪れたときにみつけたブーメランだった。

外にでて、家の向かい側の空き地でひたすら空めがけてブーメランを投げる。投げるのも僕、受けとるのも僕。ブーメランの良いところは自己完結するところだ。毎日、日が暮れるまで延々とブーメランを投げて過ごしていた。

ある日、いつものように外に出て力の限りブーメランを投げると、ブーメランは僕の手元へもどらないまま、遠くの茂みへと消えていってしまった。いくら探してもみつからなくて、僕は夏休みの唯一の遊び相手を失ってしまった。

しかし、その数日後、僕はあっさりブーメランと再会を果たす。同い年くらいの少年が家の向かい側の空き地で僕のブーメランを使って遊んでいるところを発見したのだ。あわてて外へ出て彼に「それ俺のなんだけど」と伝えると、彼は「あ、そうなんだ!じゃあさ、友だちになろう」といってきた。それがしょーたくんとの出会いだった。

しょーたくんは僕と同い年で、人見知りの自分とは対象的にとにかくひと懐っこかった。二人でブーメランを投げあってる最中、マシンガントークが止まらなかった。僕は相槌を打ち続けながら、しょーたくんにブーメランを届けて、しょーたくんからブーメランを受け取った。僕はその繰り返しが、とてつもなく嬉しかった。ずっとこうしたかったんだとおもう。投げたブーメランを自分じゃない誰かに受け取ってほしかったんだとおもう。

帰り際、しょーたくんにブーメランをプレゼントした。友だちになにかをプレゼントするのは初めてだった。

三浦直之(みうら・なおゆき)

ロロ主宰。劇作家。演出家。「家族」や「恋人」など既存の関係性を問い直し、異質な存在の「ボーイ・ミーツ・ガール=出会い」を描く作品をつくり続けている。古今東西のポップカルチャーを無数に引用しながらつくり出される世界は破天荒ながらもエモーショナルであり、演劇ファンのみならずジャンルを超えて老若男女から支持されている。『ハンサムな大悟』で第60回岸田國士戯曲賞最終候補作品ノミネート。2019年脚本を提供したNHKよるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』で第16回コンフィデンスアワード・ドラマ賞脚本賞を受賞。
撮影:三上ナツコ

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