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COLUMN

突然の差し入れ

 結婚する予定の女友だちから聞いた、相手と付き合いはじめたきっかけが印象的だった。  女友だちが残業していると、違うフロアで働く彼が、よく、コンビニで売っているようなお菓子を差し入れに来てくれたのだという。
 強く心にグッときたのは、わたしが、会社勤めをしたことがないのもあるのかもしれない。残業というのも、違うフロアというのも、もちろん意味はわかるが、おそらく一生体験することができない。〆切前に徹夜でパソコンに向かうようなことはあるが、それは残業という言葉にふさわしくない。
 コンビニで売っているお菓子というのもまたいい。箱に入ったような、高級洋菓子店のお菓子は確かに魅力的だが、いかにも「プレゼント」という感じだと、少々恐縮してしまう。きっと残業するたびに、どんなお菓子なのか、そもそも彼は今日は来てくれるのか、とワクワクしながら待ってしまう。
 そんなことを、担当編集者である女性・Sさんとの飲みの席で語っていた。笑われてしまうほど熱く。

 しばらくした頃、わたしはまた久しぶりに、〆切前に徹夜でパソコンに向かう日を迎えた。
 小説を書き上げたのは明け方で、そのままSさんにメールした。確か午前4時台か5時台だったかと思う。
 原稿を書き上げたあとというのはたいてい、頭をやけに動かしたせいか、すぐに寝つけない。読みかけの本を読んだり、ラジオを聴いたり、動画サイトを見たり、アプリゲームをしたりして、気づいたらいつのまにか眠っていた。
 ふと目を覚ますと、もう夕方に近い時間帯だった。生活リズムが乱れたことを悔やみつつ、メールをチェックすると、Sさんから返信が来ていた。送った小説の感想が丁寧に書かれていた。ありがたく、同時に、小説を気に入ってもらえたらしいことに安心した。
 もっと計画的に仕事するようにしよう、と反省していると、部屋のインターホンが鳴った。出ると「バイク便です」との応答。バイク便?
 渡された荷物は、デパートの紙袋にガムテープで封がされたものだった。差出人は、Sさん。中身にまるで心当たりはなかったそれを開けてみて、驚きの声をあげそうになった。
 チョコレートやクッキーなど、いくつものお菓子。しかも、どれもコンビニで売っているもの。お楽しみ会でもできそうなくらいの、ちょっとした量だ。手紙も一緒に入っていた。いつもの美しい字で、原稿のお礼が長く書かれ、最後は、残業おつかれさまでした(笑)、という文でしめられていた。
 嬉しかった。お菓子や感想はもちろん、以前口にした、なんてことのない話を心に留めてくれていたことが。
 お菓子の一つを開封し、口にした。自分で同じものを買ったことがあったが、なぜかそれよりもおいしく感じられた。

加藤千恵(かとう・ちえ)

歌人・小説家。1983年生。北海道旭川市出身。立教大学文学部日本文学科卒業。2001年、高校在学中に短歌集『ハッピーアイスクリーム』(現在、集英社文庫)にてデビュー。小説、詩、エッセイの他、ラジオなどのメディアでも幅広く活動中。近著に、『わたしに似ていない彼女』(ポプラ社)、『この街でわたしたちは』(幻冬舎文庫)などがある。http://katochie.net

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