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COLUMN

ラブレター・フロム・息子

ぼくはお母さんが好きだ!世の中の生き物で一番ぼくを裏切らないからだ!友達や恋人や妹が、今までして来た悪いことでぼくに呆れて離れても、お母さんだけは見捨てないでくれる気がする。ぼくはそれに甘えながら、しかしだからこそちゃんとがんばろうと思って日々暮らしているわけよ。やっぱさあ、武道館でライブとか興味ないけど、お母さん喜ぶなら目指してみたいなとか、思うし。でも好きだと伝えたことはないね。恥ずかしくてそんなこと言えない。母の日に贈り物をしたこともない。素直に何かできる子供でいたいけど、なぜだかそういう風には育たなかった。悪いなあと思う。連絡も滅多にしないし、きっとお母さんのことなんてすっかり忘れて生きていると思っているだろう。そんなことないんだけどね。もう少しお金が儲かるようになったら旅行に行きたいなとかよく考えるよ。コロナが収まってからの話にはなっちゃうけど、別府とか、台北とか、香港とか。アジアが苦手だったらロンドンでもいいけどちょっと高いなあ、もちろん僕のおごりで行きたいからね!

ありがとうって面と向かって言ってこなかったことに後悔は別にないのだ。だってまだ言える。チャンスは近いうちにくる気がするし、あとね、ぼくが元気に生きていることがいちばんの贈り物じゃい!くらいの傲慢さを持ってまーす。どうもすいません!だって元気でいれば大好きな煮物も食べれるし、唐揚げも食べれます。ね、いいでしょう。やっぱご飯のことを考えると帰りたくなってくるね。

小さい頃の僕は、本当に心に鬼が住んでた。道影から歩道にビンを投げる遊びをしたり、友達のお兄ちゃんの部屋に拾って来たエロ本を破って撒いたり。あとでこっぴどく叱られて、その度に「ああ、あれはしちゃいけないことだったのかあ」と反省した。悪いことをするのが楽しかったんじゃなくて、したいことをやってみたらそれが悪いことだったんだ。かなり扱い辛い子供だったでしょ。なんでも取り敢えずやってみてから考える癖は治ってないんだけど、あの頃とは違います。怒ってくれてありがとう。それなりに優しい男になったよ。周りからも信頼されてるぜ。

最近ふと思ったことがあって、それは、もう数十年お母さんに触れてない気がするなあってこと。さわってないってことね。こればっかりはいつになってもできそうにない。急にさわったりしたら、なによ気持ち悪い!って言いそうな気がするね。ぼくもそういうタイプだし、やっぱり血は争えないってことだ。ツイッター見てたらさ、「ハグすることを幼少期からの癖にしておけば思春期が来て反抗的になっても恥ずかしがらずにハグをする子供になる」なんて書いてあったんだ。来世もお母さんの子供として生まれる予定だから、今からそこらへんのこと勉強しておいてくれ!

バンドやったり、絵を描いたり、こうやってコラムを書いたり、定職につかずフラフラしている息子を見るのはどんな気持ちだろう。退屈させない自信あり!心配かける自信もあり!これからもよろしく。健康で。

夏目知幸(なつめ・ともゆき)

1985年、千葉県生まれ。浦安で結成されたロックバンド、シャムキャッツのヴォーカル&ギター。2016年に自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立。19年にはシャムキャッツのデビュー10周年を迎え、近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的に行っている。20年1月には初個展「氷が溶ける部屋」を阿佐ヶ谷VOIDで開催し、ライフワークとして制作していたコラージュ作品を展示。そのほか、ソロでの弾き語りライブ、楽曲提供、DJ、執筆など多方面で活躍中。
Twitter @natsumetomoyuki
シャムキャッツHP http://siamesecats.jp/