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COLUMN

ばあちゃんと地獄の還暦祝い

 おばあちゃんはもうボケてしまってたぶん俺のことが分からない。たぶんというのは全然会ってないからどういう具合なのか分からないのだ。俺、おばあちゃん子だったのに、ここ数年あんまり顔だしてなかった。自分の仕事上、親戚が集まる時期ってだいたい繁忙期で。それ以外のタイミングで行く理由もなかなかなくて。そうこうしている間におばあちゃんは施設に入ってしまった。余計に会いにくくなってしまった。行こうとしたところで面倒を見てる親戚に余計な手間とらせちゃうしなあとか、いろんなことを考えちゃう。今年はバンドもなくなって今までよりは落ち着いてるけど、コロナのもあるし行けそうにない。ああ。俺は「距離」について考える。ディスタンス。心に距離はあるんだろうか。あるよなあ。それは結構、物理的な距離に関わっていそうだよね。でも、そばに居たって遠く感じる時もあるね。恋愛とか特にね。俺が近いと思っていたって相手がどう思ってるかなんてわかんないね。友情とかってそういう感じだね。なんて考えてる間に時間は過ぎていく。勝手にずっと時間だけは律儀に進んでやがる。焦ってもいいことはないけど、のんびりしていると話ができなくなる人がいる。

 おばあちゃんが60才になる時、お祝いしようとちょっとしたサプライズを母たち4人姉妹が準備した。おばあちゃんには日帰り温泉バス旅行をプレゼント。ご近所の仲のいい友達でお出かけを楽しんでもらっている間に、お家で豪華な夕食を準備。内緒で親戚全員集合(孫だけでも10人超)。帰ってきたところを「おめでと〜!」つって驚かせる作戦だ。

 準備はバッチリ整った。その時を待って前のめりに息を飲む一同。しかし、予定の時間を1時間、2時間過ぎてもおばあちゃんなかなか帰ってこない。出かけた先で盛り上がっているんだろう。しびれを切らして飲み始める大人たち。最初こそ「まあ、こういうこともあるだろう」「こっちはこっちで先に楽しんじゃいましょ〜う」とみんなのほほんとしていたが、酔いが回ったおじいちゃんが急に怒り出した。「娘たちがお祝いしようとこんなに待ってるのにアイツは何をもたもたしてるんだ!!!」。そのとき、母たちは気づいた。おじいちゃんにこの催しがサプライズであることを言ってねえ!!「おばあちゃんはね、何も知らないの!だから仕方ない!のんびり待とう!」。しかし時すでに遅し。なだめたところでおじいちゃん、もう後に引けなくなったみたいでプンプン止まらない(もしかしたらサプライズという概念が分かってない?ということも考えられる)。この最悪のタイミングでおばあちゃん帰宅。楽しい時間を過ごして帰ってきたら家は酔っ払いだらけ、孫たちは遊び散らかしてうるせえし汚ねえ、おじいちゃんはなぜか自分にキレているってんでおばあちゃんも怒り出す。訳分からなくなったのか「自分の知らない間にみんなで集まって楽しんで!あんたたちなんなの!せっかくの還暦なのに!」みたいなことを言い出す。おばあちゃん完全にバッドに入った。寝室に篭って出てこない。天照大御神か。なんだこれ。子供ながらに俺は「これぞカオス!!!!!!!」と思った。

 その場にいた全員がいたたまれない気持ちになって、解散。

 おばあちゃん、この話ももう分かんないかなあ。分かんないだろうなあ。俺、あの時はすっごい嫌な気持ちになった。けど今になって思い返すと、ああいうのが家族だよなって思ったりするんだ。騒がしくっていいよね。鬱陶しいって、愛しいよねえ〜。その時まで俺の中でおばあちゃんはただただ優しい、いっつも優しい、つまり優しいの塊ってイメージだったんだけど、なるほどおばあちゃんも普通の人間であるってことが分かってちょっと面白かったよ。いやむしろ俺より子供じゃん!って思った。おばあちゃんがいる施設って、やっぱ静かなのかな。またうるさい中に一緒にいたいなと思う孫です。

夏目知幸(なつめ・ともゆき)

1985年、千葉県生まれ。浦安で結成されたロックバンド、シャムキャッツのヴォーカル&ギター。2016年に自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立。19年にはシャムキャッツのデビュー10周年を迎え、近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的に行っている。20年1月には初個展「氷が溶ける部屋」を阿佐ヶ谷VOIDで開催し、ライフワークとして制作していたコラージュ作品を展示。そのほか、ソロでの弾き語りライブ、楽曲提供、DJ、執筆など多方面で活躍中。
Twitter @natsumetomoyuki
シャムキャッツHP http://siamesecats.jp/

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