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COLUMN

「お祝い」はマジックワード。

 今年に入ってから、友人との飲み会ではまず最初に「今日はお祝いだ」と宣言してスタートする、というのにハマっている。

 実際、原作のドラマが始まったとか、新刊の作業が終わったとか、無事発売されましたとか、飲み会のときに「祝う」タイミングが重なったからなのだけれど、「お祝いだからね」と言ってスタートすると、妙に場の雰囲気が明るくなって、楽しくなるのだ。

 言霊。というのか、言葉の力はスゴイもので、「今日はお祝いだ」と言って始めると、ネガティブなものがその場から消える。汚い居酒屋でも妙にキラキラした空間に見えてくる。もちろん愚痴っぽい話や、イヤな話題になることもある。でもその話も結局、「まあ、今日はお祝いだしね」と誰ともなくシメると、別にたいしたコトじゃないよな、なんて軽い気分になる。毎回、最後まで楽しい時間が続くのである。

 「なんか楽しいなコレ。お祝いはいいぞ」。そう思って、飲み会の前にはもう何でもいいから「お祝いごと」を作ることに決めた。だんだん「〆切を週明けまで伸ばしてもらえた」「雨が降りそうで降らなかった」「買ったスニーカーが気に入っている」とか、相当ムリヤリな理由づけになってきたけれど、「お祝い」の中身はなんでもいいわけで。飲み会の前に駅に向かっていたらハトのフンが肩に落ちて、それはもう著しくテンションが下がったが、その日の飲み会も「逆に」「ある意味」で乗り切った。もう何もコワくはない。そもそも「祝う」の語源は「不吉なものを避け、吉事を招く行為」らしいので、単なる飲み会でも意味としては間違っていないはずだ。それは、僕だけが楽しいわけではないらしい。その宣言を始めて以来、飲み会をする回数がすごく増えた。きっと友人たちも楽しく思ってもらえたのだろう。幸福は伝播する。「お祝い」とはそういうものだ。

 友人に、ちゃんとした「お祝いごと」があれば、もっとその飲み会はスパークする。ある友人が結婚する、という。じゃあワインはボトルで頼もう。食べすぎなくらいオーダーしよう。スマホはテーブルの上に置かずに仕舞いこんで、すべてのしがらみから解放されよう。こうなるともう幸福の放射が続くだけ。ただただ笑っているだけだ。お店の店員さんが頼んでないものをテーブルに置いた。「結婚祝いのサービスです」。貝と野菜の炒めもの。オーバーなくらいのリアクションでお礼する。皆、テンションが上がっている。それをきっかけに、「私も……」と別の友人がカバンからプレゼントを出した。ネコのイラストが描かれたペアのマグカップ。もう一人の友人が出したのは、フランスの新しいお菓子屋さんのギフト・ボックス。僕は花束とカンタンに描いた絵を。僕の絵じゃ嬉しくないかもしれないけれど。プレゼントは、渡すのももらうのも、探している間もずっと、幸せな時間だ。

 しかし、結婚する彼女は少し表情を曇らせた。実は今、相手の男性とケンカしている、という。結婚式の準備はたくさんの決めごとがあり、つまらないことで何度も衝突してしまいがちだと。今日出かける前も、頼んでいたことを彼がやっていなかったので怒って出てきたそうだ。ひどい言い方をしてしまったかも、と少し後悔している。よくある話だ。沈黙のあと、彼女が「まあ、でもぉ〜…?」とミエミエの前フリ。みんなで「今日はお祝いだから!」。注文した3本めのワインボトルを飲み干すころ、彼女の旦那がお店に突然現れた。共通の友人だった一人がアドリブでこっそり呼んだらしい。はじめまして。こちらこそ。花嫁になる彼女は照れるばかり。みんなもう、だいぶ酔っているけれど、僕が「じゃあ…」と4本めのワインボトルを注文しようとすると、友人が制して「ラストオーダー、さっき聞かれたよ」。あれっ、ゴメン、そうだっけ? 気付けばお店も店長ひとりになっている。店長は僕らの話を聞いていたようで、(う〜ん…)と苦笑いしたあと、「いいですよ、お祝いですしね」。

 店長はドアの看板を裏返して「クローズ」にすると、ワインボトルと旦那さんのグラス、そしてなぜかもう1つグラスを持って、僕らのテーブルにやってきた。

 「お祝い」というのはそういうものだ。

渋谷直角(しぶや・ちょっかく)

1975年、東京都練馬区生まれ。1990年代にマガジンハウスで『relax』のライターをしながら、漫画も描き始める。主な作品に、『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』、『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』などがある。2019年、『デザイナー渋井直人の休日』がTVドラマ化され話題に。最新著書は、アメリカへの憧れが高じて、東京郊外にアメリカンダイナーを開いた中年男を描いた『さよならアメリカ』。現在『yomyom』で「パルコにお店を出したくて」を連載中。 https://www.shibuyachokkaku.com/

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